IRORIOのめちゃくちゃな記事の件
いちおうひとことメモしておきますけど*1
同性愛者が生まれる理由が判明!!生物学上の子どもを持てないのになぜ?!との長年の謎が解明されたらしいゾ - IRORIO(イロリオ)
遺伝学というのは大変sensitiveな学問で、というのはこれは優生学という負の歴史を背負っており、それが直接的にナチス・ドイツの強い共鳴を呼び、絶滅収容所という人類史上最悪のシステムを作り上げてしまったということがあるからです*2。
と、大上段に構えて言いましたが、というのも、これはなんですか。
同性愛者はどうして自然淘汰されないのか?!
http://irorio.jp/sousuke/20121213/39792/
おいふざけんなバカ!そういうことを決して言ってはいけないんだよ!僕にとっては「IRORIOはどうして自然淘汰されないのか?!」のほうがはるかに不思議だよ。
原文を読んでみると
As long as natural selection has been an accepted scientific theory, homosexuality has been a riddle for scientists. If a person is attracted to people of the same gender, he or she cannot have biological children with their chosen partner.
自然選択説が科学理論として受けいられている限り、同性愛は科学者にとっての謎である。人が同じジェンダーの人間に惹かれるなら、そのパートナーとの間に生物学的子を持つことはできない。
http://www.medicaldaily.com/articles/13475/20121211/homosexuality-cause-genetics-answer-womb.htm
なるべく注意深く書いてるのがわかりますよね。
実のところ、集団遺伝学的に言って、「同性愛者が淘汰される」という言い方は明らかな間違いで、「同性愛と関連する遺伝的因子が(未来に)淘汰される」かどうかの話です。遺伝子プールから淘汰されるかどうかの話です。「同性愛者」そのものにどんな環境不適応があるんだよ。別に彼ら・彼女ら自身は淘汰されないっつーの。遺伝情報が未来に残らないのでは(少なくともこれまでは)ってだけの話だよ。
同性愛。現在ですらそれ自体が多大な差別を受けている対象であり、それをさらに差別につながりかねない遺伝というところから話をしているので、これは極めてセンシティブですよ。
あとね最後から二段落目の翻訳。オマエさあわけわかんないんだったらおとなしく直訳しろよ。
トピック | さえきそうすけ | 私の試訳 | 原文 |
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同性愛形質がなぜヒト集団で受け継がれるか | これは通常1代つまりその胎児本人だけに作用するが、ごく稀に父親のエピマーカーが娘に、または母親エピマーカーが息子へと受け継がれることがあるらしい。こうなると父親の“女性が好き”という部分が娘に、母親の“男性が好き”という部分が息子に受け継がれ同性愛者が誕生するというわけ。 | 通常これらは一世代で消失する*3。しかし、時折「性拮抗的」なepi-marksが世代を超えて、父親から娘にとか母親から息子に受け継がれうるので、子どもたちに同性愛を生じさせる。このようなepi-marksは集団内で簡単に広がりうる、なぜならたとえ子の適応度が減少したとしても、親については極端に適応していることになるからだ | Normally, they are erased after a single generation. However, sometimes "sexually antagonistic" epi-marks can carry over across generations, passed on from father to daughter or from mother to son, causing homosexuality in children. These epi-marks can spread easily over the population because they cause the parent to be extremely fit, even if they reduce fitness of their children. |
三文からなる段落なのに、なぜか二文目までしか訳してない。最後の一文について解説を試みます。これはね、おそらく推測するに、「女性を好む女性」「男性を好む男性」というのが、生物学的子を持てないから自らの遺伝情報を未来に受け継がせることが困難である(従って集団内に自らの遺伝情報を残すという意味での適応度が低い)という前提の上で、ということは子が「女性を男性化させる」ほどの、また「男性を女性化させる」ほどのepi-marksを持っていたとした場合、それをもともと持っていた父親は超男性的、あるいは母親は超女性的であったと考えられるので、通常よりも自分の遺伝情報を残すという意味での適応度が高いであろう。したがってそのようなことによって、同性愛をもたらしうるepi-marksが集団内で受け継がれてきたのである。・・・っていうね、これね、多分元論文の核ですよおそらく(読んでないけど)。まあ集団遺伝学者っていうのはそういう議論の仕方をするのである。
なんでここ飛ばすんだ。もちろん、読解できてなかったからだろうが、ならば直訳せよ。自己判断でカットするな。
議論が保守的だって?すいません、ここは「論文著者らはこう考えただろうな〜」という推測を述べただけでありまして、私個人の見解を述べたわけではありません。
最後は
トピック | さえきそうすけ | 私の試訳 | 原文 |
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同じ家系内で同性愛者が頻繁にみられることの説明 | この様な現象は血族間で繰り返すのが特徴で、親族の中に同性愛者が何人かいるというのも珍しいことではないという。 | この理論はまた、同性愛が同家系内で頻繁に見られることも説明可能である。epi-marksは世代を超えて受け継がれるので、親類内で類似性 - よく似た遺伝子 - がつくられることになるからだ。 | The theory also explains why homosexuality runs in families. Because epi-marks can carry over across generations, they can create similarities among relatives - closely resembling genes. |
まあ正直原文も何言いたいのかよくわかりません(基本的な遺伝学の復習ですか?)が、IRORIOはそもそも何言ってんのかわかりません。「繰り返す」ってなに?ほかは超訳繰り返してんのにここだけなんなんだよ。原文は、同性愛者は同家族内でよく見られるという前提の上で、それをこの理論は説明可能、という主旨なのに、その前提だけを述べて終わっちゃってるし後半はなんだよ。勝手に文章つくるなよ。
同性愛の遺伝率について
ところで、「同性愛」なるものが当然のように遺伝学の俎上に挙がっている・・・というのはどうなんだい、という考えがあると思います。僕は全然専門でもなんでもないので文献調べました。
「同性愛」が遺伝的なものかどうかについては、例えばCoolidgeらの論文*4を参照すると遺伝率40-70%くらいってことですかね。これはある程度遺伝性があると言えます。
ただし今回紹介している記事の原文はエピジェネティクスについて語っているので、過去の遺伝率の検討を当てはめるにあたって注意が必要です。通常の各染色体のゲノム変異について一卵性双生児間の共有確率1、二卵性双生児1/2であるところ、おそらく、メチル化などについては一卵性双生児<1、二卵性双生児< 1/2になるのではないかと思います(分裂に際し修飾が落ちることがあるので)。とすると分散を推定している遺伝モデルが崩れます。まあそれほどまでエピジェネティックな因子の効果量が大きいとするならば、ですが。