橋下発言のやつ

フランスの報道。フランス語聞き取れないのでネットから。なんでかっていうと海外報道を紹介した

橋下大阪市長の「慰安婦は必要だった」発言に関する海外報道まとめ - Togetter

において「リンク先の記事を読む限り批判されていません。」っていうヘンなコメントが有ったから。いやー明らかに批判的論調だったぞ、少なくともフランスのは。

リベラシオン読みます。左派新聞だけど、これはAFP配信記事のようなので、右派フィガロも同じ記事載せてる。従軍慰安婦問題みたいに欧州でもともと関心の薄い件に関しては、「どこが何を報じたか」とか小難しい問題じゃなくって、通信社が何書いたかで決まりそうな印象を受けました。だって、どこも独自記事書いてなくって配信記事垂れ流しなんだもの。

そもそも欧州世論がこれで変化するかとかそれが日本の国益に影響するかとかまで疑問になるほどの関心の薄さではありますが・・・

フランス語学力に自信は全然ないので不信に思った人は原文にあたってください、誤訳の指摘は歓迎です。

http://www.liberation.fr/monde/2013/05/14/japon-les-femmes-de-reconfort-etaient-une-necessite-selon-le-maire-d-osaka_902722

タイトルは「日本:大阪市長によると、『慰安婦(femmes de réconfort)』は『必要』だった」。で、まず事実認識が、

La plupart des historiens estiment à environ 200.000 le nombre de femmes asiatiques réduites en esclavage sexuel par le Japon. Ces Coréennes, Chinoises et Philippines notamment étaient obligées de travailler dans des bordels militaires de campagne japonais.

大多数の歴史家は、約20万人のアジア人女性が日本によって性奴隷(esclavage sexuel)とされたと推定している。特に韓国人、中国人、フィリピン人が日本の戦地(? campagne japonais)の軍の売春宿(bordel)で働かされた。

BBCとかもそうでしたがこのへんは既定事実ってことみたいですね。

Comme l’an dernier lorsque le maire de Nagoya (centre du Japon) avait mis en doute le massacre perpétré en 1937 à Nankin (est de la Chine) par les troupes japonaises (près de 300.000 personnes selon les chiffres officiels chinois), les déclarations de M. Hashimoto ont été immédiatement condamnées à Séoul et Pékin.

昨年、名古屋(日本の真ん中)市長が1937年の南京(中国の東)での日本軍による虐殺(中国の公式な数字によると約30万人)について疑問を述べた時と同じように、橋下氏の声明はすぐにソウルと北京から断罪された。

ほう・・・なんとなくニュアンス的には、慰安婦数については確定、南京大虐殺の犠牲者数については保留(もし間違っていても大丈夫なように保険をかけた書き方?)と捉えてるんですかね。

Codirigeant du Parti de la Restauration du Japon avec l’ancien gouverneur de Tokyo Shintaro Ishihara, lui aussi connu pour ses déclarations choc notamment anti-chinoises, M. Hashimoto a certes concédé que des femmes avaient été enrôlées de force dans ces bordels militaires mais, a-t-il ajouté, c’est imputable «à la tragédie de la guerre».

日本維新の会の共同代表であり東京の前の知事である石原慎太郎によると(同様に特に反中国的な(anti-chinoises)衝撃的な声明で知られているが)、橋下氏は女性が強制的に軍の売春宿で働かされたことについては確かに認めている、とした上で付け加えて、それは『戦争の悲劇』とすべきものだ、とした。

なんかちょっと日本からの石原発言の報道と違う気がするが、翻訳間違ってるかなあ?

あとはダラダラと。

Il demeure que les relations du Japon avec la Chine et la Corée du Sud restent indéniablement marquées au fer rouge de la guerre, notamment depuis le retour aux affaires en décembre dernier du «faucon» Shinzo Abe qui souffle alternativement le chaud et le froid.

日本と中国・韓国との関係には明らかに戦争の赤い鉄(le fer rouge de la guerre)が刻印されたままである、特に先の12月に『タカ派』の安倍晋三が権力の座に返り咲き、熱狂と冷静さを交互に示してからは。(ごめんなさーい、能力不足であんまうまく翻訳できない!「赤い鉄の刻印」とは、ローマ時代に熱い鉄を押し付けることが刑罰としてなされたことに由来するようで、「戦争の記憶が国家間の関係に強く影響している」とでもいうような意味か?)

D’un côté, il affiche sa volonté de réformer la constitution pacifiste du Japon qui lui interdit le recours à la guerre, et aussi de revoir la déclaration officielle de 1995 sur les «remords» du Japon.

一方で彼は戦争を行うことを禁じた日本の平和主義憲法の改正と、1995年の日本の公式な『後悔』の声明の再検討をする意思を表明している。

De l’autre il répète que son gouvernement n’entend pas pour autant revenir sur la reconnaissance par le Japon des souffrances infligées aux peuples d’Asie pendant la Deuxième Guerre mondiale.

また一方で彼は、日本政府が、日本が第二次世界大戦においてアジアの人々に与えた苦痛を思い起こさせようとするつもりはないとも繰り返している。

Mais parallèlement, près de 170 parlementaires japonais se sont rendus fin avril au très controversé sanctuaire de Yasukuni à Tokyo, qui honore les soldats tombés au champ d’honneur mais aussi 14 criminels de guerre condamnés par les Alliés après 1945.

しかしそれと並行して、約170人の日本の国会議員が4月の終わりに極めて論争のある東京の靖国神社を参拝している。そこは亡くなった兵士の名誉を祀るところであるが、同時に1945年以降連合国に非難されている14人の戦争犯罪者も祀られている。

Suite à cette visite, la plus importante de parlementaires nippons depuis 23 ans dans ce lieu symbole par excellence pour les voisins asiatiques du passé impérialiste nippon, Séoul avait annulé un voyage au Japon du chef de sa diplomatie.

特にアジアの隣人にとって過去の日本帝国の象徴である場所に、23年来最大の人数の国会議員が訪問したことを受けて、ソウルは外交首脳による日本訪問をキャンセルした。

D’autres initiatives du conservateur Abe ont été tout aussi mal perçues par les pays voisins: fin janvier, son gouvernement a approuvé un budget militaire en hausse, une première depuis onze ans, à 52 milliards de dollars pour 2013-2014 (38,7 milliards d’euros).

保守派の安倍によるその他の行動もまた、近傍の国家から悪く思われている:1月末、日本政府はこの11年間ではじめて軍事予算を増やし、2013-2014の期間に520億ドルにした。

Et pour la première fois, le Japon a célébré fin avril devant l’empereur l’anniversaire de la souveraineté recouvrée du pays en 1952 après sept ans d’occupation américaine.

さらに初めて日本は4月末に、1952年に7年間のアメリカによる占領の後主権を回復したことを祝う式典を天皇の御前で祝った。

いつの間にか後半では橋下の件はすっ飛んでいて、日本政府の認識の話にすりかわってるのが恐し。

ただ、記事中ならびに橋下氏弁解後の記事では、この発言に対する怒りは韓国、中国だけでなく日本でも沸き起こったこと、韓国・中国政府の反発が起こっただけでなく日本政府も発言を否定したことを書いており、現在の状況については中立的な記事だと思いましたよ。

フィガロの記事は全く同じ内容でタイトルだけ違うだけで、ほかル・ポワン、あと地下鉄で無料で配ってるヴァンミニュットとかメトロとかも内容同じでした。独自記事はなさそうかなと思います。フィガロは右派の新聞ですね。

ちなみにこの記事はAFPBBには載ってないみたいなんですけどー。

雑感

いつもどおりの「アマチュアの単なる感想の垂れ流し」ですので。その点ご留意ください。

結婚制度の、今話題になってるらしい記事の話です。

http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20130514
http://kirik.tea-nifty.com/diary/2013/05/post-a02b.html

結婚制度は崩壊させたほうがいいのかどうかってことですが、つうか単に文中にある、なぜかブクマが8件しかない番長の記事リンクを紹介したいだけです。

この、結婚制度の話をするときはどうしてもフランスの話が出てきますかね。自由そうだし、女の人にはフランスって言うだけでそれいいかも、ってなる人が、まあ一定数いますしね。

フランスでの結婚式

わたしはフランスに住んでいるといってもそんなに友達はいませんので、フランス人の結婚式に出席したことはないんですけど、話に聞くところによるとその手順は

  • 市役所で、市長本人が参加する小規模な結婚式を挙げ、その目前でお役所の書類に結婚の署名をする(パリだと市長ではなくて区長だったかな?)

フランスの街々というのは、その街の市役所そのものが建築後数百年の歴史に登場する建物だということがあるので、歴史的建造物好きが高じてフランス留学に至った僕としては見逃せないわけですが、そういった市役所の見どころの部屋でちょうど結婚式が行われていて、立入禁止状態になってたりすることもありました。でもそこから素敵な格好をした花嫁・花婿が出てくるわけだからまあそれもアリかなって感じですかね。

  • その後、キリスト教徒の場合は、教会に行って神父さんの前で結婚の誓約をする

フランスの教会はわりとフリーダムで、ミサ中ですら入ることは可能なことがあるので、結婚式も扉付近で見ることはできたことがあります。ええなー。あれ。教会そのものが、たいてい700年以上の歴史あるからなー(そこにしかこだわらない)。

で、結婚式の通例として、式場間を車で移動する際、お花の飾り物をつけた車に乗って、クラクションを鳴らしまくりながら通り過ぎる、道ですれ違うなんの関係もない車も、クラクションを鳴らし返して祝福する、ってことをやることになってます。フランスでものすごいクラクションの鳴らし合いを見たとき、交通上のケンカをしてるってことも、まあよくありますが、もしかするとそれは結婚式の祝福を行なっている幸せな光景なのかもしれません。僕もやってみたぜ。ニコニコして手を振ってくれたぜ。実はパリではあまり見ません。自分は一回も見たことないかも。郊外の街で見た風景です。

はっきりいって、カッコいいです。花嫁は、幸せそうです。

「結婚は過去の制度となりつつあり、もはや100年後に残っているとはちょっと思えないよね」、という極論がちきりんさんの記事に挙げられています。

これは、「100年後には人類の100%がリベラルになっている」という主張でしょう。

私は某サイトによるとリベラル右派ですが、しかしそれはありえないと思います。現在の、ちきりんさんが挙げたような「世界」ですら、各国ではリベラルと保守が交互に政権を担当しており、常に議論を戦わせています。特にフランスは凄惨な大革命を経験し、そんなふうな過去をゼロにして全てを革新的に執り行うというような選択は決してしない国の第一であろうとすら思います。

少なくとも欧州においてはこの質問は、「100年後にキリスト教の日曜ミサはやらなくなっているか?」とか「100年後にキリスト教式の葬式はやらなくなっているか?」とか「100年後にローマ法王はいなくなっているか?」と同じ問いだと思います。かなり100%に近い確率で、無くなっていないと思います。

フランスにおける結婚制度

結婚制度についてどう思うかというのを同僚に聞いたことはあるのですが、あこがれではあるが面倒だ、という感じで言っていました。最近パリではあまりやらなくなったので寂しいことだ、と言っていたおばちゃんもいました。ココらへんの詳しいところについては、いつもご紹介する番長ブログの優れた記事をどうぞ。

フランス番長 フランスで事実婚が多い理由、番長がお教えするぜ

フランスに実際住んでいる私からすると、フランスに関する各種記事において最も現地感覚・現地での報道に近いのはこの番長ブログであると自信を持って言い切りたい。みなさんも興味のある記事はどんどんたどって読まれるといいです。オススメです。

PACSの制定意図

番長記事以降でのフランス国内での変化というと、ご存じの方も多いと思いますが、同性婚が合法化されました(CNN.co.jp : フランスの同性婚合法化法案、成立へ 反対派は違憲主張)。国論を二分しているとはいえ、結婚したい(させたい)のかい!なんかちきりんさんの主張の方向性とは違うような気もしますね。

これは重要なところで、すでにフランスにおいて同性カップルはPACSという手段を持っているが、それでもなお「結婚」という制度を求めている、もしくは国家として同棲によるPACSという制度とは別に、結婚ということをさらに認めようとしている、というふうにそれだけ「結婚」という制度に価値を置いているということになるのではないでしょうか。

一般的には、ちきりんさんの挙げたような、結婚していない同棲カップルや同居家族に、結婚しているカップル・家族と同等な法的保護を与えるという方向性は、フランスが最初に1999年PACSとして法制化し、それがどんどん欧州各国に広がっていった、ということになっています(wikipedia:民事連帯契約)。

実はフランスでのPACSの制定には、少し裏話があります。ここにはフランス語教師(フランス人)から言われたことを書きますが、裏とりとしてはこの辺りにちらっと書いてあるかな:http://pacs-japon.com/about-pacs/archives/3

要約するとPACSは、結婚制度なんて意味が無い、結婚制度を崩壊させる、という目的でつくられたものではない。同性愛者保護運動の一環であったということです。

現在の同性婚合法化をなしとげたのはフランソワ・オランド大統領の社会党政権です。現在は下院アサンブレ・ナシオナルも社会党が多数派を取っています。つまりフランスは完全な左翼政権となっています。

1999年のPACS制定当時のフランス大統領はジャック・シラクで、中道保守ですが、首相はリオネル・ジョスパンで、社会党でした。フランスの政治は、こういう保革共存(コアビタシオン)が何回かあります。

ここでジョスパンの社会党内閣が提案したのがPACSだったのですが、実は社会党政権はこの時点では同性婚法案を出したかったのだそうです。しかし保守の猛反対で、どうにも成立はできなそうだった。保守派の考えは、「同性の結婚自体は良いが、その子供(もちろん養子)を正しく育てられるとは思わない。結婚によって形成される家族において、子供には父親と母親が必要だ。だから同性婚は容認できない」というようなものだったそうです。石原や亀井よりはまだ寛容だけど、それでもガチ保守派ですなー。

それに対する社会党政権の回答が、結婚制度としてではなくてもよいから、同性カップルに夫婦としての法的保護だけは与えてくれ(同性カップルの働いている側が亡くなったあと、働いていない側がひどい困窮に陥るのを避けさせてくれ、など)。というものでした。それがPACSの当初の狙いだったそうです。

そして、そのため、PACSには結婚とくらべてひとつ、これを背景とした制約があります。

養子を取ることができないのです。

なんじゃそれ、っていうこの制約の理由は、同性カップルに子供を持たせたくない保守派に妥協した結果なわけです。

したがってPACSはもともと同性カップルに法的保護を与えるために作られましたが、異性カップルも、こりゃいいやとどんどん利用したってわけで、その結果として現在の状態になったんだそうな。。。

社会党がやりたかったことは、今も昔も同性婚の容認であって、結婚制度の崩壊とかは(まあ別に反対もしてないでしょうが)特別意図する所であったとは思われません。1999年PACS制定から2013年同性婚合法化までが社会党の一貫した主張であったのですが、PACSの意義はなんだか完全に別の方向で取り扱われることになっているというのが現状だと思われます。

終わりに

要するに何が言いたいかというと、ちきりんさんの言っていることはあまりに一神論的主張すぎて(リベラル一辺倒すぎて)、彼女自身は日本が世界に遅れていると言いたいようなのですが、むしろその議論の仕方は現在の世界的な政治的議論の潮流としては遅れているとすら言えるではないかということです。

日本から欧州を眺めるとき、欧州は決して一枚岩のリベラルってわけではない、各国のどこにおいても保守とリベラルが議論を重ねた後に今がある、っていうことは意識しておいてもよいのではないかと思います。ちきりんさんの主張というのは極論を述べて議論を喚起したいということなのだろうとは思います。しかしちょっと読者を舐めているのではないかなと感じるところも多いです。

私自身はPACSは、その当初の思惑はどうあれ社会に広く根づいており国民に支持されていて、同様に日本で施行されればある程度の国民が支持する可能性はあるとは思います。しかし、番長ブログに挙げられているように、非キリスト教国である日本においてはもともと結婚・離婚が比較的容易なので、そこまで多大な支持が出ることはなかろうとも思います。そしてまた、結婚制度というものに象徴的意味を見出す保守派がいる限りはそう簡単に結婚制度が崩壊するとは思えません。リベラル右派である僕ですらそうです。

婚外子の割合が50%前後になってきているというのは、これが今後100%になるということを意味するとは限らないのです。50%前後で平衡すると考えることだって出来ます、ちょうど国民における保守とリベラルの割合がそうであるなら。

いずれにせよこれは、フランスでもやったように、保守とリベラルの慎重な議論の上で、国民的に納得の行く方向性として定められるべきであろう、そうでなくて「世界はこうだ!日本もこうしろ!」というのは、民主党も何回かやっていますが(二酸化炭素排出規制とか・・・)、次の選挙で国民の猛反発を食らうだけっぽいのです。

ではどこでどのように、保守とリベラルが建設的な議論を行えるのか?というのがわからないんですけども・・・フランスでは新聞や雑誌やテレビでやっているんだそうですが、かなり感情をむき出しにしてツバ吐きながら主張のやり取りをしており、それのみならずまちなかでは支持者たちが豪快なデモを繰り広げたりストしたりやりまくっていますので、なぜその最終的な結果として具体的な政策に行きつけるのかよくわからないんですが、おそらくある程度やりあったあとは「C'est la vie.(ま、いっか)」で終わらせているのだろうというのが私の今のところの見解です。日本は当然そうは行きませんので、日本人にあった、国民的議論を存分に行った上で集約できる方法というのはこれから考えていくべきところなのだろうと思うのです。国民性から言うと、アメリカでもイギリスでもなく、ドイツが近いのかもしれませんが、ドイツの国内事情については私は全くわかりません。

Nature新方針の件(2)

冒頭追記の注:まさか勘違いされてる方はいらっしゃらないとは思うのですが、これはNew England Journal、Lancet、JAMAといった疫学誌の方針変更ではなくNatureグループです。グループというと幅は広いですけど、基本的には対象は疫学研究と言うよりはより基礎に近い方のライフサイエンス研究が対象であると考えられます。つまりこれは、iPS細胞とか次世代シーケンサーとかそういった範囲の研究が対象の査読方針変更であることを今一度ご確認の上ブコメしていただくようお願いしたいと存じます。特に「疫学研究ではこれまで当然だった」ことは、下にも書いてあるように僕も当然だったと思いますしそんなことは本件にはなんも関係ありませんし、この件の意味がよくわからなくなってしまいます。念のため。

会議中ですが興味なく暇なので昨日の続き。Natureの要求するチェックリストを見てみます。面白い。時代が動くようにも感じますね。

これをGWASとかのbiostatistics系の研究や疫学研究に要求するのは普通だと思いますが、全てのライフサイエンス研究に要求するとしたら新しい気がする。

逆にライフサイエンスの研究者でない人には、これまでトップジャーナルが、ルーチンとしてはこういうことを要求していなかったことに驚く人もいるかも。フィッシャー先生にようやく顔向け出来る、みたいな。まあ個々のレビュワーにこういうことを突っ込まれることはこれまでも良くあったし、トップジャーナルになればなるほどこの辺の要求が厳しくなるというのは元々の傾向ではあったとは思いますけどね。

最近の日本人研究者のアレぶりが、これに結びついたんだったらやだなー。

統計と一般的なメソッド

1. あらかじめ決められた効果サイズを検出するために、充分な検出力を持つと保証されるサンプルサイズをどのように求めたか。

動物実験では、結果に統計学的方法が使われなかったとしても、サンプルサイズ推定についての記述をいれること。

2. サンプルや動物が解析から除外されているなら、inclusion/exclusion基準を記述すること。それは事前に決められたものか?

3. サンプルや動物の、実験グループへの割付と処理が無作為化されているなら、その方法について記述する。

動物実験では、無作為化が行われていなかったとしても、それについての記述を入れること

4. グループへの割付について、実験中と/またはアウトカムの評価において、観察者に盲検化が施されているなら、その程度について記述する。

動物実験では、盲検化が行われていなかったとしても、それについて記述する。

5. どの図についても、統計学的検定は妥当なものだと正当化できるか?

データは検定の仮定とあっているか?(例えば正規分布か?)

6. 実験の各グループにおいて分散は推定されているか?

統計学的な比較が行われたグループ間においては、分散は等しいか?

(薬品と動物実験については略、原文読んでちょ)

ヒト

11. 研究プロトコルを承認した委員会を明記する
12. 全参加者からインフォームドコンセントが得られていることを明記する
13. 患者の写真を発表するなら、発表についての同意があることを明記する
14. ClinicalTrials.gov などへの臨床試験登録番号を明記する
15. 第II相とIII相の無作為化比較試験については、CONSORT声明を参照しCONSORTチェックリストを提出すること
16. 腫瘍マーカーと予後の研究においては、REMARK報告ガイドラインも参照することを勧める

あとデータ保存についてもありますが略。

Nature新方針の件

この件が実務上問題となる人が、英語を読むのに苦労するとは思えないので意味があるかどうかわかりませんが、一応まとめよう。自分のために。

Announcement: Reducing our irreproducibility : Nature News & Comment

  • 来月(5月)から、Natureと関連雑誌は生命科学論文の一貫性と質を改善するための編集基準を導入する。
  • 論文著者に技術的・統計的情報の開示を求め、レフェリーには研究の再現性という面で重要な点を検討するよう促すためのチェックリストを用意した。(http://www.nature.com/authors/policies/checklist.pdf
  • また、より詳細な統計についての記述を要求し、論文によってはエディターの決定やレフェリーの提案に従って統計学者をコンサルタントとして委任する。
  • メソッドセクションについての文字数制限を廃止する。
  • グラフや図があるなら、それを描くために直接使われた、アクセスが容易なデータの表を提供するよう促す。
  • これまでに引き続き、詳細なメソッドと薬品についての記述をProtocol Exchangeに載せるよう促す。

それぞれについての細かい説明とか、今後についての大局的な戦略とかも書いてありますので興味ある人は原文をば。

ランダー・グリーン・アルゴリズム(7)

隠れマルコフモデル

隠れマルコフモデルについて、細かいところ(本質だけど)はぶっとばして、実装上のポイントだけ述べます。

隠れマルコフモデルは、時系列のように、状態が徐々に変化していくようなもの、確率過程について、実際には観察されないデータ「隠れ変数hidden variable」を仮定することで推定を回しやすくしたものです(あってる?)。

「マルコフ」過程であるとは、ある状態が、一つ前の状態によって完全に説明され、過去の振る舞いは関係ないようなものです。

具体的にはこのようなモデルです。

  1. 隠れ変数の初期状態を決める。隠れ変数は観察されたデータでないのだからいろいろな可能性があり、それは確率的に表される。
  2. ある状態から別の状態へ変化する時の確率を与える。これは移行確率transition probabilityと呼ばれる。
  3. それぞれの過程において、隠れ変数によって表されている状態から、どのような観察データが得られるかの確率を与える。遷移確率emission probabilityと呼ぶ。

これで、適切に現実のデータをモデル化し、パラメータ推定をします。推定法として、ビタビ・アルゴリズム、バウム・ウェルチアルゴリズムなどを用います。ランダー・グリーン・アルゴリズムが用いているのはバウム・ウェルチです。

このモデルが、遺伝家系データの解析にバッチリ合うと言うんです。

よくわからない方もいるでしょうが、いいんです!実際のモデルを見てから考えましょう。

ランダー・グリーン・アルゴリズム

さて本論です。通常とは逆の順序で説明したいと思います。

遺伝的データの隠れマルコフモデルを用いた表現

まず遺伝的座位を染色体上に並べて思い浮かべます。

各座位における観察データは遺伝型です。これは実験的に得られます。

次に隠れ変数は、そのどちらが父親、母親のどちらから来たかということにします。以前の回でわかるように、これは遺伝型の相ですから、それは必ずしも一つに求まらないものであることが分かっているはずです。だから隠れ変数にします。

次に、隠れ変数である遺伝型の相から観察データである遺伝型への間を遷移確率で記述しなくてはいけません。遺伝型の相は、継承inheritanceされるものということからIとし、観察データの遺伝型をGとすると、遷移確率は、座位MiにおいてP(G_i|I_i)です。ランダー・グリーン・アルゴリズムの場合、ある状態I_iについて、観察データG_iは1対1で与えます。より新しいアルゴリズムの場合、観察データに実験エラーがありうることを踏まえてそうでない条件も考慮されています(逆に言えば、ランダー・グリーン・アルゴリズムにおいては、実験エラーの存在は許されません)。

つぎに座位から座位への状態の変化、移行確率ですが、これが乗換え現象を表したもので、組換え価によって記述できるとすでに述べました。この移行確率はP(I_i | I_{i-1})で、これについて、θiを、座位M_iM_{i+1}のあいだの組換え価とします。非常に単純に、

P(I_i = 0|I_{i-1} = 0) = 1-\theta
P(I_i = 1|I_{i-1} = 0) = \theta
P(I_i = 0|I_{i-1} = 1) = \theta
P(I_i = 1|I_{i-1} = 1) = 1-\theta

であることがわかろうかと思います。

最後に初期状態を与えますが、原則として家系データにおいて、遺伝型が与えられたもとでのありうる遺伝的アレルの流れは事前情報なしではなにもきめられないので、全て同等に確からしい、つまり均等分布uniform distributionに沿うとするのが妥当でしょう。

さてこれをまとめるとこんなんなりました。

 L = \sum_{I_1} \cdots \sum_{I_m} P(I_1) \prod_{i=1}^m P(I_i | I_{i-1}) \prod_{i=1}^m P(G_i|I_i)

・・・という式を書くよりも、下の図を見たほうがわかります。

下側の◯は、染色体上において親の祖父由来か祖母由来かを表す隠れ変数です。上がわの□は、実験で得られる観察データで、これが仮想上の隠れ変数のもとにどのように与えられうるかが遷移確率によって記述されます。そして、◯の横側の流れは染色体上の、祖父由来か祖母由来かの変遷を表していて、組換え価によって記述される移行確率でその振る舞いが表される、というモデルです。

さて、ここまでの説明だと、一人分の染色体においてのモデルでしかありません。家系として記述するにはどうすればよいと思いますか?

ここにエリック・ランダーの、もうひとつのすげーアイデアが導入されます。

イレッサ訴訟

※4月4日注記 本文中事実関係に齟齬があったみたいです。コメント欄参照下さい。ゴメンナサイ。

ようやく終わりかけているようです。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130402-00000077-mai-soci

副作用としての間質性肺炎に罹患された患者様のご健康をお祈りし、また亡くなられた患者様におかれましてはまことにお悔やみ申し上げます。

以前も書いた*1ことがありますが、この件について、今後このような新薬副作用の大発生を起こさないようにするための私の考える提言をまた挙げたいと思います。一個追加したけど。この日記も以前より多少は注目が上がっているかもしれないし。

  • 厚労省に承認申請をするような薬剤については、国内外での臨床試験の事前登録(http://www.umin.ac.jp/ctr/index-j.htm)を義務付けすべき。
    • ただ、海外のよく知られたレジストリに登録されていればショートカットは可とする、この際厚労省における審査を要するようにする。
  • 厚労省の、臨床試験統計学的な解釈能力の向上。統計学的解析を行える人材の充実
  • 新薬処方における制限、専門医以外の処方禁止
  • 新薬処方時の総処方数制限。市販後追跡調査をこれまでより厳格化し、一定の処方数を超えたらその時点での安全性を解析、(1) 今後自由に処方して良い (2) 次の段階の処方数まで増やしても良い (3) 今の数でもう少し追跡 (4) 処方禁止、市場から引き上げ などの判断を下す。
  • 医学部、研修医レベルでの、疫学・統計学教育の強化。

一つ目については、今回の原告弁護団の主な主張であった、データ隠蔽を起こさせなくするための手段です。これについては、厚労科研費を使った臨床研究についてはすでに義務付けが開始しているみたいです。しかし、製薬会社スポンサードの臨床研究が一番の問題なわけで、これについて義務付けか、結果として義務付けられているのと同様の状態にしないと意味ないかなとも思います。ここらへんはどうなっているだろう。

二つ目についてですが、当時イレッサについては、同じ臨床試験の結果を見て、日本は承認し、アメリカはpendingとしてました。これは多分、臨床試験統計学的な解釈能力の違いでしょう。最近のwhat_a_dudeさんやtakehiko-i-hayashiさんのエントリを見ても、日本の官庁に、統計学的解析を行える/評価できる能力を持った十分な数の人材がいないようです。これらの方々を見れば、十分な能力を持つ人そのものがいらっしゃることはわかります。ならば人数が足りないのでしょう。それなら統計ができる人材を増やすべきです。・・・しかしそうすると、統計なしで生きてきた既存の高級官僚の方のレゾンデートルが失われちゃうのかもしれませんね。だとすると内部改革は難しそうですから、ジャーナリストが指摘すべきでしょう。そうすると統計なしで生きてきた既存のジャーナリストのレゾンデートルが・・・(以下略)

三つ目と四つめは臨床医レベルについての提言です。特に処方数制限と段階的解除というアイデアを私は好みます。それにかぎらず日本の医療システムは、もうちょっと国単位で全体としてのデータを収集し、コントロールすべきと思っています。今の日本のシステムはヘッドなしの100の遊撃隊を集めたような感じで、ナポレオンから羊を率いても撃破できるとか言われそうな感じがします。

五つ目です。こんな提言が効果を発揮するには何十年もかかるかもしれません。しかし今このアクションを起こすべきだと僕は思ってはいるのです。医者が統計をわかるべきです。たとえ厚労省が、十分な人材がいないために結論を誤っても、医者がそれを統計学的見地から見破れるべきです。日本とアメリカの当局の判断が違う、それはなぜかとすぐに統計的に判断する。医者は、それができて相応の立場と給料をもらってるはずです*2

そもそも個々の薬剤の承認は厚労省がやっていますが、その後どのような病態にどの薬を処方するかは、適応疾患との兼ね合いをいろいろにゴニョゴニョしながら、日本の医者は割りと自由にやっている現状です。

一つの奇策として、医者が研究するのに、分子生物学ではなく臨床研究の方に大量に送り込むようインセンティブを何かつけるというのもあると思います。医学部出身で研究をやる人のほとんどは、数年で辞めて臨床に戻ります。その際、研究していた時の考え方を身につけて臨床に帰るのも重要だとの考えで、僕自身は、キャリアの多様性が極めて少ない日本においてこうやって医者のほとんどが現場以外の経験を身に着けているというのは多分日本の臨床レベル向上に大きく役だっていると思うのですが、今は統計が重要みたいですから統計を勉強しましょうよ。するとアカデミックな考え方を身につけるのみならず、統計学的な考え方まで身につけられて超いいです。分子生物学は、生物学出身のポスドクの方に任せたらどうでしょうか。彼らのほうがプロなのは明らかだし、就職難もあるみたいだし。欧米のほとんどはそういう感じになってきていると聞きますが。

*1:http://d.hatena.ne.jp/aggren0x/20110115/1295051615

*2:逆に、医者が採血したり点滴入れたり経鼻胃管入れ替えしたりするのはやめたほうがいいと思う。私のそれを見たアメリカの医師は「お前らはスレイブだな!Huh!」って笑ってたさ

ランダー・グリーン・アルゴリズム(6)

ついにランダー・グリーン・アルゴリズムの説明に入るぞ!

全般的なアイデア

1980年代後半に至るまでの間に、エルストン・スチュワート・アルゴリズムが開発され、それを実装したプログラムが無料で配布されるようになり、数々の連鎖解析が主に欧米で行われました。このアルゴリズムの基本的なアイデアは、下に示すように、与えられた家系において、それぞれの人においてありうる遺伝型の組み合わせをあげていき、人について掛け合わせていくというものです。これをパラメータ、具体的には組み換え価のもとに表し、この観察データを与える可能性が最も高いパラメータをもって「最尤推定量」とします。

それぞれの個体において、可能な遺伝的座位の組み合わせが、各座位において可能な状態の、座位数乗になります。

このアルゴリズムが人数について線形、座位数について指数的であったため、1980年代にDNA研究が爆発的に進展し(PCRの発見がこの時期です)、たくさんの遺伝的座位をタイピングできるようになり、また多点解析の理論が成熟したのに、それを実践レベルの遺伝統計解析がうまく活かせていないところがあったようです。

そこで登場したのがランダー・グリーン・アルゴリズムでした。発想の転換をしたのです。各遺伝子座においてありうる遺伝的アレルの流れを挙げ、それを座位数分掛け合わせて行ったのです。ごく単純に図で表してみると次のようなものです。

正面からみていたのを横からみてみたような、そんな感じ。超発想の転換。すげえ、と僕は思いました。

各遺伝的座位における状態は、遺伝型そのものではなくて、両親の各親のどちらの染色体(祖父由良、祖母由来)を、もらったか、とします(観察されたデータではなく1ステップ置くようなやりかたで、これを隠れ変数hidden variableと言います)。この状態が染色体上で変化するのは、乗り換えが起こった時です。すなわち、近傍の遺伝的座位との間において、組み換え価によって状態が変化する確率を記述できます。とくに各遺伝子座間のこの確率が独立だとし(ホールデンのマップ関数のように)、遺伝的座位を左から右に(一般的には染色体の短腕側から長腕側に)見ていくなら、この確率過程はマルコフ過程と呼ばれるようになり、後述する隠れマルコフモデルを適用できます。

計算量について考えてみますと、各座位において、人数乗分の状態が発生し(後述します)、それを座位数分掛け合わせていくことになります。

これは計算量が人数について指数的でしたが、座位数について線形なので、多数の遺伝的マーカーを用いたいと考えていた当時の遺伝研究者のニーズにバッチリ符号したのです。

次回以降もっと細かく見ます。