イレッサ訴訟

※4月4日注記 本文中事実関係に齟齬があったみたいです。コメント欄参照下さい。ゴメンナサイ。

ようやく終わりかけているようです。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130402-00000077-mai-soci

副作用としての間質性肺炎に罹患された患者様のご健康をお祈りし、また亡くなられた患者様におかれましてはまことにお悔やみ申し上げます。

以前も書いた*1ことがありますが、この件について、今後このような新薬副作用の大発生を起こさないようにするための私の考える提言をまた挙げたいと思います。一個追加したけど。この日記も以前より多少は注目が上がっているかもしれないし。

  • 厚労省に承認申請をするような薬剤については、国内外での臨床試験の事前登録(http://www.umin.ac.jp/ctr/index-j.htm)を義務付けすべき。
    • ただ、海外のよく知られたレジストリに登録されていればショートカットは可とする、この際厚労省における審査を要するようにする。
  • 厚労省の、臨床試験統計学的な解釈能力の向上。統計学的解析を行える人材の充実
  • 新薬処方における制限、専門医以外の処方禁止
  • 新薬処方時の総処方数制限。市販後追跡調査をこれまでより厳格化し、一定の処方数を超えたらその時点での安全性を解析、(1) 今後自由に処方して良い (2) 次の段階の処方数まで増やしても良い (3) 今の数でもう少し追跡 (4) 処方禁止、市場から引き上げ などの判断を下す。
  • 医学部、研修医レベルでの、疫学・統計学教育の強化。

一つ目については、今回の原告弁護団の主な主張であった、データ隠蔽を起こさせなくするための手段です。これについては、厚労科研費を使った臨床研究についてはすでに義務付けが開始しているみたいです。しかし、製薬会社スポンサードの臨床研究が一番の問題なわけで、これについて義務付けか、結果として義務付けられているのと同様の状態にしないと意味ないかなとも思います。ここらへんはどうなっているだろう。

二つ目についてですが、当時イレッサについては、同じ臨床試験の結果を見て、日本は承認し、アメリカはpendingとしてました。これは多分、臨床試験統計学的な解釈能力の違いでしょう。最近のwhat_a_dudeさんやtakehiko-i-hayashiさんのエントリを見ても、日本の官庁に、統計学的解析を行える/評価できる能力を持った十分な数の人材がいないようです。これらの方々を見れば、十分な能力を持つ人そのものがいらっしゃることはわかります。ならば人数が足りないのでしょう。それなら統計ができる人材を増やすべきです。・・・しかしそうすると、統計なしで生きてきた既存の高級官僚の方のレゾンデートルが失われちゃうのかもしれませんね。だとすると内部改革は難しそうですから、ジャーナリストが指摘すべきでしょう。そうすると統計なしで生きてきた既存のジャーナリストのレゾンデートルが・・・(以下略)

三つ目と四つめは臨床医レベルについての提言です。特に処方数制限と段階的解除というアイデアを私は好みます。それにかぎらず日本の医療システムは、もうちょっと国単位で全体としてのデータを収集し、コントロールすべきと思っています。今の日本のシステムはヘッドなしの100の遊撃隊を集めたような感じで、ナポレオンから羊を率いても撃破できるとか言われそうな感じがします。

五つ目です。こんな提言が効果を発揮するには何十年もかかるかもしれません。しかし今このアクションを起こすべきだと僕は思ってはいるのです。医者が統計をわかるべきです。たとえ厚労省が、十分な人材がいないために結論を誤っても、医者がそれを統計学的見地から見破れるべきです。日本とアメリカの当局の判断が違う、それはなぜかとすぐに統計的に判断する。医者は、それができて相応の立場と給料をもらってるはずです*2

そもそも個々の薬剤の承認は厚労省がやっていますが、その後どのような病態にどの薬を処方するかは、適応疾患との兼ね合いをいろいろにゴニョゴニョしながら、日本の医者は割りと自由にやっている現状です。

一つの奇策として、医者が研究するのに、分子生物学ではなく臨床研究の方に大量に送り込むようインセンティブを何かつけるというのもあると思います。医学部出身で研究をやる人のほとんどは、数年で辞めて臨床に戻ります。その際、研究していた時の考え方を身につけて臨床に帰るのも重要だとの考えで、僕自身は、キャリアの多様性が極めて少ない日本においてこうやって医者のほとんどが現場以外の経験を身に着けているというのは多分日本の臨床レベル向上に大きく役だっていると思うのですが、今は統計が重要みたいですから統計を勉強しましょうよ。するとアカデミックな考え方を身につけるのみならず、統計学的な考え方まで身につけられて超いいです。分子生物学は、生物学出身のポスドクの方に任せたらどうでしょうか。彼らのほうがプロなのは明らかだし、就職難もあるみたいだし。欧米のほとんどはそういう感じになってきていると聞きますが。

*1:http://d.hatena.ne.jp/aggren0x/20110115/1295051615

*2:逆に、医者が採血したり点滴入れたり経鼻胃管入れ替えしたりするのはやめたほうがいいと思う。私のそれを見たアメリカの医師は「お前らはスレイブだな!Huh!」って笑ってたさ