ナルコレプシーのGWAS

今週新たな業績が発表されていたので、ちょっとまとめとして。

ナルコレプシーとは

ナルコレプシーというのは、眠い眠い病気。眠い病気の鑑別診断として睡眠時無呼吸症候群、Kleine-Levin症候群、夜間ミオクローヌス症候群などがあるが、それらと区別するためのナルコレプシーの4主徴として以下のものがあげられる。

  1. どんな活動をしていても、突然起こる睡眠発作
  2. カタプレキシー*1: 突然の脱力発作で、何らかの感情の高ぶりと関連することが多いもの。
  3. 睡眠麻痺: 睡眠から起床への移行時などに、意識はあるのだが全身の筋肉に力が入らない。
  4. 入眠時幻覚: 睡眠直前や睡眠発作中に起こる幻視、幻聴を含む幻覚。

特に睡眠発作時に、覚醒状態からそのままREM睡眠に直接移行するのが重要。

これまでの研究

GWAS以前

もともとナルコレプシーには遺伝性が指摘されており、さらにだいぶ前から、ナルコレプシー患者の多くが、人種を超えてHLA-DQB1*0602*2という遺伝的な特徴を持っていることが分かっていた。とはいえこれを持っている人は健常者にもいるため、ナルコレプシー発症に関わる他の遺伝因子も存在する、つまり多因子遺伝性疾患であると考えられてきた。

GWAS以後

ある特定のヒトの全てのDNA配列であるヒトゲノムの解読、ならびにたくさんのヒトの個人個人の違いのデータベースであるHapMapの作成により、病気に関連する遺伝的因子を探索するためヒトゲノムすべてを一気に調べることができるようになった。このような手法のうち最も成功しているのがゲノムワイド関連研究GWASである。

栄えある世界で最初のナルコレプシーのGWASは、東京大学人類遺伝学教室の業績である*3。彼らは222人のナルコレプシー患者と389人の健康な人の全ゲノムのSNPマーカーを比較し、さらに結果を748人の別のナルコレプシー患者と994人の別の健康な人で確認した*4。このとき、CPT1B-CHKBという遺伝子のある領域に、ナルコレプシーの第二の責任遺伝子座が発見された。

そのつぎの業績はアメリカからで*5、2000人レベルの患者サンプルを用いてT細胞受容体のコード遺伝子のひとつであるTCRAにおける関連を発見。免疫の遺伝子だった。

今回

新たな業績は、3000人レベルの白人、2000人レベルのアジア人(日本人を含む)と、300人のアフリカ人の患者を解析したものである*6。これによると、P2RY11という遺伝子が新たにナルコレプシーの関連遺伝子候補として同定されたとのこと。なにやらNK細胞での役割を強調しているようだ。どうなんでしょう。

まとめ

患者数が多いわけではないので、他の疾患で行われつつあるような数万人規模のGWASにいたるまではまだ道程が長いようだ。これまでHLA以外で三つ、特に繰り返し強力な関連が確認されているのはTCRA上SNPただ一つのようである。

日本では、櫻井先生が発見したこともあってオレキシンの役割を単独で強調するところが大きいけれども、遺伝解析が明らかにしたところでは、HLAやTCRが発見されているところからすると、まず本態としては免疫疾患なのだろうか(そういう話も昔からあった)。自己免疫疾患としてのターゲットがオレキシンもしくはオレキシン産生細胞である可能性はあるのだろう。

*1:ちなみにカタレプシーは統合失調症の方が動かなくなっちゃう症状で、これとは違います

*2:でぃーきゅーびーわんすたーぜろしっくすぜろつーと読みます

*3:http://www.nature.com/ng/journal/v40/n11/full/ng.231.html

*4:このように何回も別々の集団で同じように確認されることが、確固たる「遺伝因子」として最低限の必要条件となる。「才能占い」や、その他最近湧いてきているあやしい医者・業者が使用しているマーカーが満たしていないものだ。

*5:http://www.nature.com/ng/journal/v41/n6/full/ng.372.html

*6:http://www.nature.com/ng/journal/vaop/ncurrent/full/ng.734.html