研究留学の話

引用先もひとりごとだし、このエントリもひとりごと。まあ追随っていうか。こういうのみんなそうですよ的な話っていうか。パリの話ですいませんが。

http://biomedcircus.com/research_02_13.html

海外に出ると、海外駐在員として出てきたような日本人は、研究留学している人間よりも完全にふたつかみっつ、格上の生活をしている。ちなみに官僚もそうである(なんでだろう)。

幸いなことに(?)僕は海外に出た当初から駐在員と関係をもってしまったので、最初っから格差に気づいていて、途中で気づいて涙するようなことはなかった。それでわかっていた格差はこういうものだ。

まず海外に来たら役所に滞在許可証をもらわないといけないが、研究者は一人でなんとかするか、ラボの事務さんに頭下げて朝から並ぶ。駐在員は、会社が手配した通訳さんがやってくれて、窓口の時間に間に合えば良い。

研究者が雑踏に向いた一部屋のステューディオ、まかり間違えばルームシェアリングした屋根裏部屋に住んでいるなら、駐在員は3LDK以上のアパルトマンで、20階くらいのエッフェル塔の見える部屋に住んでいる。家賃は月25万円前後が相場。研究者の家の方にはときにエレベーターがなかったりするが、駐在員のほうはガーディアンが24時間セキュリティを監視している。

研究者の家のテレビは昔ながらのブラウン管だが、駐在員の家のテレビは会社持ちの30インチ以上液晶だ。最近地デジ化で見れなくなる危険もあったが、インターネットTVの普及でなんとか食いつないでいる。

僕の子供はアンパンマンが好きだが、当地では見ることができない。駐在員は、アンパンマンのDVDを日本から取り寄せる。運送費は会社持ちだ。奥様も毎月日本の雑誌を読んでいる。うちはそのおこぼれにあずかる。

研究者の移動の手段がすべて徒歩であるとするなら、駐在員は必ず車を持っている、しかも駐車場ごと会社持ちで。車に関して言うと、官僚は外交官ナンバーの車を持っていて、駐禁のところに平気で止めている(日本人はさすがにあまりしないかも)。

研究者は現地の幼稚園(無料)に子供を通わせるが、駐在員は月10万円程度の月謝を払って日本人幼稚園に通わせている。たぶんそれも会社持ち。

研究者の給料は日本にいる時より落ちがちだが、駐在員の給料は5割増しだ。昔はもっとだったらしい。

研究者はセールを狙ってパリの地元の服屋さんの服を奥ちゃんに買ってあげるが、駐在員奥様はほとんどギャラリー・ラファイエットでヴィトンの小物や大物を買っている。あまりみんな同じ物を持っているので、お前らそれは制服か、と突っ込みたくもなる。

駐在員奥様は、会社が手配したフランス語教師のもとでフランス語を勉強している。一回1万円とかだったりするらしい。研究者の奥ちゃんは、がんばって現地の語学学校にいくか、まあ適当に買い物の時とかに現地で人と話している。それでも研究者奥ちゃんのほうが現地語喋れる率が高いように見えるのはまあ公然の秘密というべきか。

研究者は、こだわりをもって選びに選び抜いた少しだけのおもちゃを子供に買ってあげる。駐在員は、たくさんのおもちゃや知育玩具を与え、室内にジャングルジムがあったりする。

研究者もたまには地元のブラッスリーでなんとか子供をあやしながら奥ちゃんと夕ご飯を食べるが、駐在員は日本人ベビーシッターに子供を預けて三つ星レストランで奥様の記念日を祝う。

駐在員は年に1~2回くらいはビジネスクラスで家族で日本に帰る、もちろん会社持ち。そして日本のおもちゃを大量に持って帰り、うちの子はうらやましがる。研究者もたまにエコノミーで帰国することは不可能ではないが。

ふう。これは想像上のものかも知れません(笑)。少なくとも統計学的に妥当な調査をした結果を示しているわけではありません。バイアスのもとに駐在員の方の方を貶める表現になっていたらすいません。

もちろん研究者にアドバンテージがあることもある。

駐在員は、会社のお偉方が来たら空港までお出迎え、24時間接待だ。研究者はまあそんなことはない。あるとしても向こうからラボまで挨拶に来てくれる。

駐在員奥様は非常に厳格なヒエラルキーの中におり、部長夫人は課長夫人よりえらく、部長夫人同士なら会社の格で偉さが決まる、らしい。奥様お茶会などもこのヒエラルキーを守らねばならない(上の人から誘われたら行かねばならない)。研究者の奥ちゃんはそんなの気にせず気楽にしている。あと現地語が喋れる奥様が居た場合、自分より格上の奥様がしゃべれないならば、しゃべってはならない(うちの奥ちゃんが一回注意されたことがあるが、ヒエラルキー外だっつーの)。もちろんヒエラルキーから脱出している奥様もいらっしゃいますが、だんなの立場がどうなっているかは不明。

駐在員は、会社が帰れと言ったら帰らなくてはならない。もっともこれは研究者もクビになったら帰らざるを得ないだろうし医局派遣なら帰れと言われることはあるが。

僕自身はなんとかやってます。

なんで?僕は俗っぽいので、こういうあからさまな格差を見せつけられると心が折れるのだが、それでもやれているのは、医者なんだから日本に帰れば逆転するんだぞと思いながら自分を保っているだけかもしれない(まあ駐在員も「先生」て呼んでくるし)。みんなそんな裕福なわけじゃないじゃないか、と思うかもしれないが、正直研究者になるような人間がこれまで同級生だった人間たちが裕福であると、人はそういうものと比較してしまうものであろう。

もちろん患者さんを救う研究をしたいという理想に支えられている面もある。やりがいのある、自分のやりたいことをやっているという自負もある。だがそれだけでは、とくに子育てにおける格差を見せつけられると、無理だ。

あとまあもしかすると、本質的に幸せなのは自分たちである!と自分で自分に暗示をかけているところもあろう。お金がないなりに本当の幸せを楽しんでいるんだと思い込もうとしているのであろう。そういう思い込んだ気持ちは、この文章のあちこちににじみ出ているものと思われる。

最後に、僕は当地でも幸いな事に業績を得るに至った。だけどこれはたまたまなのです。これを是非強調したい。

元記事ブクマにも書きましたが、バイオ研究は水物で、結局のところ宝くじです。数学や理論物理とは大きく違うと思う。工学、計算機科学とも違うのでは(詳しく知りませんが)。どんなに優秀でも業績がでないなんてことはままある。優秀じゃない人が大変な業績をあげることもある。自分は優秀であるから、かならず自分は有名になる、偉くなる、なんていうのはバイオ研究においては蓋然性の低い目標だと思います。だからバイオ研究者は、そうはならなかったときにどう振る舞うかを考えながら生きるべきだ。こういう低俗な格差に弱い人(もしくはガラスのようなプライドを持つ人)で、バイオ研究者になって海外留学したいというなら、MD PhDを進める次第。あと医学部でて研究者になるにしても、研修してから。とりあえずプライド的に潰れることはないです。

強力な、高邁な理想を持つ人には関係のない話です。

自分の子供が生命科学研究をしたいと言ったなら・・・止めるだろうなあ。システムズバイオロジーとかああいう方面なら許すかなあ。