血液型による就職活動は、ナチスドイツ的である

これってそんなにばかにするような簡単な問題じゃないと思う。

http://www.asahi.com/national/update/0822/TKY201108220073.html

以前も書いたように、血液型というのは遺伝学の扱う範囲でもある。

http://d.hatena.ne.jp/aggren0x/20110505/1304586875

現在では数十万円もせずにゲノムDNAに刻まれた個人の遺伝情報を読むことができるようになっているが、そうやって読まれた遺伝情報の中に、自身の血液型情報も含まれている。骨髄移植などをやらない限り、これは実際の血液型と一致する。そして遺伝情報であるから、これは父親と母親から受け継がれたものであり、生まれてから変化することは基本的にはない。B型である人が、努力してA型になることはできない。

血液型によって就職を差別するということは、遺伝情報によって個人の就職を差別するということとほぼ同義である。これはつまり、女性だから就職させないとか、在日韓国人だから就職させないというような、現代の先進国において到底容認できないような醜悪な判断、性差別や人種差別と同じかそれ以上のレベルの差別である。それはナチスドイツが行ったことと、程度は違っても理論的には同じ事で、人事担当の人たちが意識していなくとも悪名高い「優生学」の名の下に行われたと考えてよく、第二次世界大戦後に生きる我々の世界では許されないことであると考える*1

今回は、扱っているのが血液型による差別ということで、これは科学的根拠が今のところないことは僕も上記のエントリで述べているし、まあ基本的には科学リテラシーがないような、愚かな企業がやることと馬鹿にしてもいいだろう。ブコメの多くはそのようにバカにするコメントであふれているし、それについては僕も同意である。

しかし重要なのは、その企業側のちょっとおバカな担当者は、本当に血液型が個人の資質を判断できるファクターと捉えていて、それによってまさに就職差別を行おうとしているという事実の方(本当なら)であろう。

現実には今、本当に科学的根拠のある遺伝因子が次々と明らかになってきている。それら遺伝情報が得られるようになってきたとき、就職における差別に使われないと言い切れるだろうか。

いま、アルツハイマー病の発症に関わる遺伝因子がわかってきている。ぼけられると後年労働力にならないから、それを持つものは採用しないなどと、20台の就職活動中の個人にはなんら関係のないことで、就職差別されたりしないだろうか。

上司の言うことを聞く遺伝因子というのが明らかになったとして、それを持つものだけを採用するようになったりしないだろうか。少しでも反抗的気質に関係する遺伝因子を持つものは採用しない、というふうに。

後者に関しては、どちらかというとそんなことをしないような企業の方がおそらく伸びるだろうとは、なんとなくは思われる。特定の環境にあまりに適応しすぎた種が、あるストレスで急に絶滅してしまうという事実を僕らは恐竜に関して知っているわけで、企業においても同様に、遺伝情報が得られたとしても、それに基づいて特定の遺伝型のヒトを選択的に採用するよりも、多様性を確保する方が世界の変化に対応しやすいのではないかなあ、と思わないでもない。

それでも、おバカ企業が(科学リテラシーがなかったり遺伝学的な正しい知識がないからと言って、その企業が他のことに関してもおバカであるとは限らないだろう)、前途ある若者の未来を、本人の意思ではどうにもできないような因子で閉ざしてしまうのは出来る限り避けるべきだと強く思う。そういったことを防ぐような社会における約束事、それが法律というものではないだろうか。法律は専門ではないけれども、僕はそう思った。

遺伝情報を用いた就職差別は、法律で禁止し、違反した場合には強力な罰則を設けるべきであると僕は主張したい(欧米諸国ではすでにわりと進んでいる話だ)。

*1:わたしは遺伝情報による差別が許されないという考えが、絶対的な真理であるというようには思わない。実際のところダーウィン的な進化というのは、特定の環境ストレスのもとに置かれた時の進化論的な「選択 selection」が中心メカニズムである。このとき自然界を、遺伝情報による差別のもとに批判するわけにもいかないだろう。むしろこれは、現代の我々が生きている世界のルールとして捉えるべきだと思う。そしてそれは、民主主義のこの日本で多くの人が同意してくれる考えであると私は思っている。ただしこれを政治家が国民に問いかけてちゃんと合意を取らないといけないと思うんだけどね