山下俊一教授
長崎大の山下俊一教授に、グリーンピースが解任請求を出したとか。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110614-00000005-jct-soci
僕は原発の是非を問うているわけではないですよ。放射線リスクの評価について問うているのです。
戦前っぽい?
不安定な政治体制に加えて過激派による学者の吊るし上げ、いよいよ戦前の大日本帝国っぽくなってきたようにも思う*1。はてなブックマークのコメントを見るかぎりはあまり支持を得られていないようなのでまあ安心するべきか、それとも次に待ち受けるのは226なのだろうか。たいしたことないのかもしれないが、しかし大正時代の日本人は、日本が戦争直前の日本のようになるにはどうも思っていなかったらしいことも留意すべきことであるように思える。たとえば軍人が町を歩いていると毛嫌いされるので、軍服を脱いで町に出ていたらしい。その後十年そこらであれですよ。
ま、素人考えですけどね。
自分の手でデータ解析するということ
データ解析の結果を人に伝えるというのはほんとうに難しい。数千人、数万人ものデータを、何個もの因子について解析して、学者は最終的に論文を書くわけだけど、一番重要なポイントに絞って論文作成するのが通常なので(書ききれない)、実際には解析者は世の中に出ている論文の成果以外にも多くのことを知っていたりする。山下教授はまさにヒトの放射線被曝データ解析を主導した人なわけだ。広島・長崎のあと、巨大な放射線被曝データはチェルノブイリくらいしかないので、それをした数少ない人たちの一人ということでもある。
国民の皆さんに人気の工学部の人たちは、原子炉をいじったりはしていても、自分で放射線を浴びたヒトの生の健康データを見たことがない(はず、もし見たことあるんならそれはそれで大問題だけど)。言っていることからは論文すら読んでいるか怪しいけど、論文以上のことはもちろんわからない。そんな人が声を大にして世の中に発言できるなんて、その度胸のでかさは大したものだ。僕は学者としての良心にかけて、自分で没頭した研究以外について世の中に学者として断定的に意見を述べるなんて、恥ずかしくてできない。
そういうわけで、僕は遺伝疫学者として数万人の人々の、各数十万から数百万の因子を解析するという妙な分野で研究しているわけですけど、このデータを実際に自分の手で解析した人間以外に、本当のところはわかるはずもなかろうと思う。もちろん頑張って伝えようとは努力しているが、でも僕のつかんでいる認識全体をわかってもらうには、同じ解析をその手でしてもらう以外には不可能だろう。
それで、だからこそ山下俊一教授よりも、工学部の人達のほうが真実に近いことを知っているなんてことがあるわけもないと思う。
一般の人に伝えるにはどうすれば良いのか
でもそれを、そもそもデータ解析を生業としないみなさんにどうやって納得出来るように伝えればいいのか。それがわからない。
簡単に一つ解決法は思い当たる。原発の放射線リスクについて分かりたいヒト全員が、数年間かけて疫学とデータ解析のトレーニングを受ければ良いと思う。そうすれば僕みたいなボンクラと同程度の認識くらいは得られるだろう。だけど当然そんなのは無理だ。ヒトはそれぞれやりたいことがあって、いくら原発問題に関心があるからって人生の数年かけて統計勉強したいわけではなかろう*2。
二つめは、義務教育に医学・経済・社会学などの、応用統計の入り口を用意すること。これは重要だと思うし、欧米では取り組み始めているとも聞く。放射線問題もそうだけど、世の中の問題を科学的に考えるなら統計は不可欠(それだけでもだめだけど、どの分野でも必要なのは統計)。かといってそれをしても現在の問題は解決しないが、それでも国家百年の計とも言うし。戦前の悪魔が今蘇り始めているように見えることを思うと、やはりこれに取り組む必要はあるのではないだろうか。
吊るし上げられた側はどうすればよいのか
いま、日本の疫学者を含め、似たような分野の多くは、実際に自分で放射線被曝データを扱っていなくても、感覚として、山下先生の正しいことをわかっているだろうと思う。たとえば医者の多くは、統計を専門にしてなくても同じようなことを言っている。近い分野で活躍する人間は、感覚として分かることがあるものだ。
それでも吊るし上げられてしまったときはどうする?
こんな日本で、正しく生きる方法がある。大きな声が出ている側につけばいいのだ(必ずしも多数派とは限らない)。そうすれば安心。いじめが起きる時だってそうだ。日本ではいつでもそう。