ベーチェット病

東海大の猪子先生のグループの論文がNature geneticsに載っていた。やれば出ることはわかっていたがやるのが大事。ベーチェット病といえば、ほとんどはトルコから日本までのシルクロード沿いにのみ発生するという特殊な自己免疫疾患で、すでにHLA-B51という遺伝的感受性因子が発見されている*1。猪子先生グループによると(http://www.nature.com/ng/journal/vaop/ncurrent/abs/ng.624.html)、そのほかIL23R-IL12RB2座位、IL10座位に有意な関連を発見した*2。またもうひとつ、これはトルコのグループ?も同様の所見を得ている(http://www.nature.com/ng/journal/vaop/ncurrent/abs/ng.625.html)。このように幅広い人種できわめて再現性の高い結果が得られるというGWASの特徴は今回も確認された。

GWASというと最近は効果が小さいので今後臨床的にどういう意味があるのかを問われることが多い。しかしベーチェットについては明らかだろう。ベーチェットは実はそんなに頻度の低い病気ではない。しかし重症化する人、失明したり、腸管ベーチェット・神経ベーチェットなど命に関わる病気に進む方がいる。結節性紅斑などもこの疾患が若い女性に多いことを考えれば美容的に問題がある(結構重要だ。美容的な問題が損なわれてうつ病になって自殺することがありえることを考えれば、これも立派に致死的な合併症である)。その違いはなんなのか?あるいは薬剤的な反応性も、この疾患は多様性がある。そういった多様性は何によってもたらされているのか。環境なのか(それならそれでその原因となる環境因子の解明に全力を上げる理由になるだろう)、もしくはSNPに代表される個人間の遺伝的な違いなのか?それを明らかにする方法に今後の研究が進むことを望みたい。

まあ強皮症以外の自己免疫性疾患一般に言えることだが、医者は診断ができて、今後ありうる経過をのべることができても、目の前の患者さんがどうなるのかの予測はほとんどできない現状なので(いままさにどうなりつつあるかはわかることもあるが5年先はわからない)、そのような予測、そして予測に基づいた治療に、GWASの結果が活かされていくことが出来ればいいと思う。というか、それがまさに医者である自分がGWASの世界に足を踏み入れた最大の理由であった。

*1:後述両文献のいずれも、HLA-B51のassociationを観測しているようだからこれについてコントロールしなかったようだ。もっと圧倒的に強力な関連なのかと思っていた。これをいれると他の関連が消えちゃうくらいの

*2:しかしgenetic inflation factor 1.05は日本人としては高いな・・・。