一卵性双生児の識別について

一卵性双生児はゲノムDNAが「基本的に同一」なので、DNA鑑定で見分けることは困難。しかし、それを見分ける技術が開発されたというニュースです。

http://japanese.engadget.com/2015/04/29/dna/

によると、

一卵性双生児を通常のDNA鑑定で区別することは困難でしたが、この技術を用いれば、たとえば一卵性双生児が関わる犯罪でも DNA 鑑定を用いた捜査が容易になります。

とある。これはDNAメチル化を利用した鑑定のようです。

DNAメチル化は、ゲノムDNAの上におこる修飾で、親から引き継ぐもののほか、成長の過程で獲得するものもあります。そこで、ゲノムDNAが「基本的に同一」な一卵性双生児間でも全ゲノムのメチル化プロファイルを取れば、違いがあるかもしれません。これは、現在の知識レベルからは自然な発想だと思います。

ただし、ブコメには「DNAでは不可能だがメチル化なら可能なのだ」と、このニュース記事を解釈しているようですが、そういうことではありません。

この素晴らしいニュース記事は論文へのリンクを貼っています。さらにその論文が引用している最初の論文は、

five single nucleotide polymorphisms (SNPs) present in the twin father and the child, but not in the twin uncle. The SNPs were confirmed by classical Sanger sequencing.

われわれは、双子父(双子1)とその子供には存在するが、双子叔父(双子2)には存在しない一塩基多型SNPs)を5個発見した。これらSNPsは、古典的Sanger法によって確認された。

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1872497313002275

とあって、こういったSNPs(本当はSNVと呼ぶべきですが)を検出することで、ゲノムDNAのシークエンスによって一卵性双生児の識別が可能である可能性が示されています。これはなぜ可能なのかというと、おそらくまったく同じゲノムを持って発生した一卵性双生児のそれぞれの細胞から、発生後の非常に初期に片方にだけ突然変異が生じたのでしょう。もちろん、もう片側にもそれだけが持っている突然変異があると思います。これらは「de novo突然変異」と呼ばれるものの一部であると思われます。

で、そういうわけだからゲノムDNAだけからも一卵性双生児の識別は可能であると思います。引用元論文も、この可能性を否定していることは全くありません。しかし、これを検出するためには30億塩基におよぶ全ゲノムシークエンスが必要であり(突然変異はどこに起きるかランダムであると想定されており、しかも数は非常に少ないので、全部調べるしかありません)、そのためのコストはようやく最近、いろいろなチート技を駆使して一人あたり1000ドルを切ったところですからコストが高いわけです。

それで、メチル化に着目すると、bisulfite sequencingとかいう方法だとやっぱり同じコストがかかるし、methylation chipでも数万円はするわけですが、今回本ニュース記事が引用している論文は、それらよりずっと安く、現実的なコストで一卵性双生児を識別できるかもしれないぞ、というところが主な主張なのです。

個人的には、メチル化の違いは一卵性双生児間で現れるだけでなく、一個人の組織間でも現れるはずですので、事件現場に残されたサンプルと個体から得たサンプルとの採取の違いによって現れるばらつきがどれだけ影響するのかという点に興味があります。

全ゲノムシークエンスはどんどん安くなっていっているので、そのうちそっちが安いということになりそうな気もします。