SSHと科学研究、学会発表や査読付き論文投稿について
ちょっと古い記事のようですが、id:semi_colonさんのブクマ経由で読みました。SSH(セキュア・・・ではなくてスーパーサイエンスハイスクール)がEM菌の研究をしているようだ、との批判。
なんと言えばいいのか、科学の原点に戻るというなら、例えEM菌だろうとなんだろうと、計画して、実験して、自分で結論を導き出すというのはまあ悪いことではないと思うんです。EMを少しでも取り扱ったならただちにニセ科学で糾弾すべきだ、とは私は思わないのです。まあ本職の研究者は大体そう思うでしょうけど。
そのうちにはEM菌はたしかに効果があったとする実験結果がでることもあるでしょう。そりゃあそうです。高校生程度が、高校教師に指導された程度*1で、完全にコントロールされた信頼度の高い実験をできるということはないでしょう。っていうか、それを言ってしまえば本職の研究者だって学会発表とか論文投稿すりゃコントロールができてないことを批判され、やれ実験条件が安定でないだの、やれネガコンが必要だだの、言われるわけで、レベルには違いがあるけどそれは、科学とはそういうものだと思います。
しかしね、もしそれを科学の原点に戻ってやるというなら、その研究成果を学会で発表して質疑を受けたり、科学雑誌に投稿して査読を受けるまでしないと一貫しませんね。例え高校生であろうとです。そこで初めて科学の厳しさを味わうわけですから。
そこまでやらないなら「スーパーサイエンス」の看板を降ろすのがよろしい。
そういう意味では、ちょっと古い話になりますが、私の分野においては以前SSHの研究成果として日本全国耳あか遺伝子マップの作成、というのがありました。
これは素晴らしかった。
まず第一にこれは一校のSSHの成果ではなく、多数の*2SSHのコンソーシアムの成果なのです。そうです、大規模研究が普通にいくらでも行われている現在の世界の科学研究の潮流です。いろいろなラボの研究者があれやこれや文句を言いながらも一つの目標に向かって実験を積み重ねつつ、結果が揃ってきたらまたあそこはデータを出してないだのここは実験が怪しいだのあいつは偉いだの俺はそう思わないだのああだこうだ言い合っていく、研究コンソーシアムをすでに高校生の時点で結成してしまうなんてマジ素晴らしい。いい経験だ。
そして彼らは研究成果を日本人類遺伝学会で発表したんですよ。高校生が。
耳あか遺伝子に地域差 高校生が日本人類遺伝学会で発表 - All Things Must Pass
まあその場に私もいたんですけど、実のところ学会長もやたら優しくて、本音で言えば「学会発表の厳しさを味わった」的なもんではないけど、でもやったじゃん。あんまりおかしければ質問もでるさ。
そしてちゃんと論文投稿して査読を通過してるんですよ。ほら。
SSHの高校生たちの名前がAppendixにズラっと*3!JHGは日本人類遺伝学会の機関誌みたいなもんでしたが最近は結構頑張っていて、Nature Publishing Groupに入ったし非欧米圏の人は結構投稿してる感じがあります。査読はもちろんちゃんとあるよ。
ほんとすごいよね、田中清先生。
http://www.jst.go.jp/pr/jst-news/2007/2007-04/page07.html
この耳あかはほんとすごかったけど、まあそこまでの成果*4ではなくても、ちゃんと最後は科学者のピアレビューシステムによる評価を受けてシメる、という科学研究の基本については意識すべきだと思います、特にEMみたいなアヤシいものを扱うなら。
厳しいようですが、こういうことがちゃんとできないような高校は、SSH指定を外すべきではと思いました。まる。