環境省ゲノムのやつ

福島県住民のゲノム検査断念の理由を

ゲノムの解読過程で機械的な誤りが生じるため、専門家からは「親子間に違いがあったとしても放射線の影響なのか、他の要因なのかも区別できない」と妥当性を疑問視する声が続出。さらに、実子ではなかったことが解析で明らかになった場合の倫理的な課題も指摘されていた。

http://mainichi.jp/select/news/20130312k0000m040022000c.html

と書かれていますが、ちょっとよくわからないです。

まず第一に後者の倫理面の問題ですが、これは確かに重大な課題ですが、これ自体が計画全体を中止させるものとまでは言えないと思います。とはいえこの問題点の指摘は正当です。

最初のやつ『ゲノムの解読過程で機械的な誤りが生じるため、専門家からは「親子間に違いがあったとしても放射線の影響なのか、他の要因なのかも区別できない」』というやつなんですけど。これよくわからない。

まず第一に『ゲノムの解読過程で機械的な誤りが生じるため』・・・他の要因かどうか区別できない、って言いますけど、これいい始めたら今、毎週トップジャーナルに報告が続いている希少疾患のシークエンス研究報告は一体どうなるんじゃ・・・全部エラーだったとか!!?

実際にはかなりシークエンスの精度は上がってきており、その上どうしても確認したい場合はサンガーという確認法があるので(精度が上がりエラーがそれほど多くない状況下では)あまり問題ないはずです。これは現在の国際的コンセンサスだと思いますけど。


次に『親子間に違いがあったとしても放射線の影響なのか、他の要因なのかも区別できない』というやつですが、これは複雑です。

  1. そもそも、血液採取して細胞成分を取った時に見られる親と子の遺伝的変異の違いは、生殖細胞ゲノムの違いです。放射線は関係ない。「放射線か、他の要因なのか」というレベルの問題ではありません。放射線を含め、出生後に生じた変異の影響は入っていないもの(とされるもの)を見ているのです。原発事故以前に生まれていた子を見るのなら、原理的に言って何もわかりません。
  2. 原発事故中・事故後に受精し生まれた子については、親の生殖細胞に入った変異が子の生殖細胞ゲノムにおいて見える可能性があります。つまり血液採取によるゲノムに、です。親と子の間で、自然の状態でも突然変異が入り、この変異率については現在世界で精力的に推定が詰められていて、つまりコントロールデータがあります。この状況下では親子間の違いに放射線が影響したかどうかは、大きな違いがあったならわかりますし、統計的に判断できないくらいの小さい違いであるかどうかもわかります。(ただしこの方法は当初研究の計画には入っていないはずです)

どっちもあてはまらないよ〜。ほんとに専門家がそんなこと言ったんかいな。

実のところ、今回の環境省の計画の大問題は、福島医大にゲノムの専門家はいないのに、環境省と福島医大だけで計画を決定し、その計画が前提知識を決定的に欠いていたということでした。ただ、事故後出生児を見ることをメインにするとか、体細胞変異率を見る方向にするとかで、やりようはあります。また、計画中止は難しかろうと思いました。だって、代替案もなくこの計画を中止するというのはちょっと恥ずかしい。

でも、とくに言い訳もなく先送りということだそうです。

なんでこんなことが許されちゃうかというと、記者の実力不足ではないでしょうかね。もうちょっと、何が問題点なのか、どうしてその上でこの計画が立案されたのかを論理的に詰めて欲しい。

などと考えておりました。誰にも専門分野はあります。環境省は素晴らしいなあと思うこと多いです。ですが専門外に手を出すときは、専門家にちゃんと意見聞いたほうがいいと思います。厚労省が金だした東北大ですら(ゲノムの専門家がいないので?)手こずってると聞きますのに。

※2013-03-12 一部過剰な表現を訂正しました。